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拡張するファッション01

1995-2011、クリエイティブファッションのドキュメント。帯にそう記されたこの本の主たる構成要素は、95年から00年代前半にかけて雑誌媒体で発表された、著者によるインタビューやレポート記事の数々です。それらは加筆修正を経、丁寧な注を付された上で四つの章に分けられ、各章の導入には書き下ろし文が、結びにはアーティストたちの現在を追った追加インタビューが配されています。

拡張するファッション04

このような本書の成り立ち方そのものが、とても好きです。

ある時代について全般的に、あるいは何らかの分野に的を絞って語ろうとするとき、やり方はいろいろあるでしょうが、たとえば社会学的なアプローチによって、様々な作品や事象・事件などの断片をしかるべく解説し、結論としてその「ある時代」に名前を付ける、というのをよく目にします、新書とかで。混沌とした世界をわかりやすく、把握しやすくするという意味では、これはなかなかよい方法なのでしょう。ただ、「説明してまとめる」過程で、とうぜん失われてしまうもの、零れ落ちてしまうものが多数あるはずだし、また逆に、「あの時代はこうだったのだ」ときっぱり言い切ろうとするあまり、余計なものまで拾い過ぎたり、無理やりにでも掬い取って主張の援用に駆りだすようなところが、どうしても出てきてしまう。これはでも、たぶんことさらに批判されるべきことではなくて、むしろ何について書くにせよ、書くからには仕方のないこと、ふつうのことなのだと、諦めてしまってもよいのかもしれません。

しかし、そうでない本ももちろんあるわけです。けっこうあります。僕にとってのその一冊、「拡張するファッション」がとても素敵だと思ったのは、上記のような構成の仕方――既出の断片をいくつも並べ、その間を丁寧に補いながら紡いでいくような――を選択することで、この本が、仕方なくもふつうでもない優れたドキュメント(記録)として成立しているからです。

この本は、何かを主張するために、ほかの何かを引っ張ってくるようなことはしていない。都合よく区切ろうとしたり、わかりやすく括ろうとしたり、飲み込みやすいよう薄めたりしていない。あくまでも、パーソナルな思いが発端となったいくつものクリエーションと、その発信者たちが主役を張っている。そして、彼らの活動と繋がりの糸を辿り続けた著者の、当時の考察と報告そのものが、ある時代のプロフィールとして結晶している。

そういう本だと思うのです。

拡張するファッション03

現代的なクリエーションの出発点としての「ガーリームーブメント」、その自発性の輝きと美意識の革命。インディペンデント雑誌「Purple」による越境。ファッションという概念の拡張と転換を試み続けるBLESS、COSMIC WONDER、そしてパスカル・ガテンの声。スーザン・チャンチオロの絶えざる自己刷新。エレン・フライス曰く、「小さいままでいて、なにか完全にパーソナルなことを提案すること」。その他いろいろ。

彼らに寄り添い続け、彼らを見つめ続け、その声を聴き続けてきた著者の仕事の軌跡そのものが、「拡張するファッション」という本なのです。

多くの人々の心を、この本は刺激してきただろうし、これからも刺激しまくるのではないでしょうか。著者自身が、おそらく取材に行く先々で多くの人々に刺激されまくったように。

拡張するファッション02

さて、林さんは、「拡張するファッション」にとっても今度の展覧会にとっても、編集者やキュレーターの存在がかなり大きい、と仰っていました。著者として自分の過去のテキストを編集する、そしてそれを展覧会へと育て上げる作業において、他者の手と視線はなくてはならないものだったそうです。そんなお話を聞いて、あの本がいったいどのような共同作業を経て「拡張」していくのか、ますます楽しみになったのでした。

石鍋

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