文・クラリスブックス 高松

私にとって、2019年はサイレント映画の年であった。

シネコン大全盛時代、ものすごい音響設備の映画館や、3D上映はもちろん、座席が動き、水しぶきが飛ぶ4D上映も珍しくない時代にあって、残暑厳しい9月に渋谷のシネマヴェーラで特集上映されたサイレント映画の数々を見るにつけ、私は映画という表現芸術の本質をそこに見たような気がしたのであった。

サイレント映画の話の前に、新作の話を少し。
2019年もたっぷり映画館で映画を見ることができた。数えてみると、110回映画館に足を運んだが、そのうち新作は24本。あまり多くはないので見逃した作品も多数あるが、2019年、特に印象に残ったものは、

『幸福なラザロ』
『ローマ』

その他、
『象は静かに座っている』
『イメージの本』
『マリッジ・ストーリー』
が印象深い。

『幸福なラザロ』と『ローマ』は群を抜いていた気がする。あまりに感動して、思わずブログに書いたので、よろしければ、そちらもどうぞ。

『幸福なラザロ』が素晴らしかった。。。!

本当の強さは美しさに繋がる 映画『ローマ』

さて、サイレント映画について。
2019年に見たサイレント映画は全部で6本であった。それほど多くない。しかし、2019年はあえてサイレント映画の年であったと言える位、私にとって、どの作品も印象深く、心に響いたのであった。
シネマヴェーラでの特集上映で見た作品は5本、恵比寿ガーデンシネマで開催されたゴーモン映画祭での上映で見た作品が1本。

『戦争と平和』1919年 フランス 164分 監督・脚本 アベル・ガンス
『霊魂の不滅』1921年 スウェーデン 107分 監督・脚本 ヴィクトル・シェストレム
『サンライズ』1928年 アメリカ 95分 監督 F・W・ムルナウ
『街の天使』1928年 アメリカ 101分 監督 フランク・ボーゼージ
『スピオーネ』1928年 ドイツ 150分 監督・脚本 フリッツ・ラング
『裁かるるジャンヌ』1928年 フランス 96分 監督・脚本 カール・ドライヤー

 

サイレント映画は文字通り音がなく、時々挿入される字幕によって我々観客は物語の進行を理解するわけだが、それがなくても、役者の動き、そしてカメラワーク、カット割などの編集によって、物語はぐんぐん進む。まさにこれが映画という表現芸術の基本である。だめな映画というのは、こういった基本中の基本が全くなっておらず、べらべらと説明のような台詞が延々と続き、派手なアクションや劇的な音楽によって物語を進めようとする。見ている時は楽しいかもしれないが、結局心に残らない。
私は上に挙げた作品を見て、まさに無駄な贅肉をそぎ落とされた、洗練された映画の真髄を見出した気持ちになった。これこそ、映画、という感覚であった。

技術的な問題として、台詞を入れることができなかったからこそ(制約された状況だからこそ)、素晴らしいものが生まれる。それはちょうど、低予算の50年代ハリウッドB級フィルムノワールに隠れた傑作が多数存在するのと同じような状況なのかもしれない。それはCGでなんでも出来てしまう現在の映画界が忘れてしまったものだ。なんでもできてしまうからアイデアが生まれない。少ない予算、限りある技術だからこそ、知恵を絞って映画というものをしっかり追求する。結局、その違いなのだろう。
思えば数年前、ラングの『メトロポリス』をシネマヴェーラで見た時から、何かしら映画というものについての捉え方が私の中で変わっていたのかもしれない。

映画のメモ帳を読み返すと、2019年、旧作は100本近く見たが、その中には何度も見たことがある作品も含まれる(『博士の異常な愛情』『ミツバチのささやき』『ノスタルジア』『8 1/2』等)。
私は映画は映画館で見たい。そして、好きな映画は何回も見たいタイプなので、なかなかたくさん数を見ることができない。年間このくらいの本数を見るのが限界かなと思う。それでも、渋谷や新宿、池袋、阿佐ヶ谷の映画館で過去の名作を多数上映してくれるので、ほんとに助かっている。2020年も素敵な作品に出会いたいものである。