文・クラリスブックス 高松

スタンリー・キューブリックの『時計じかけのオレンジ』を映画館で見た。巨大なスクリーンに主人公アレックスの、あの不気味な顔がドアップで映し出された瞬間、私はいろいろなことが一気に理解できたように思った。
つまり、結局のところ、映画という表現媒体そのものがルドヴィコ療法なのではないだろうか、ということである。

アレックスがルドヴィコ療法の“副作用”によって、好きだったベートーヴェンに拒否反応を起こしてしまうが、我々のなかにも、映画を見ると、良くも悪くも、ある意味そのような作用が起こっているのではなかろうか。

古本買取クラリスブックス 映画 キューブリック 時計じかけのオレンジ

子どもの頃スピルバーグの『ジョーズ』を見た人は、鮫が怖くなるのはもちろん、海も怖くなるかもしれない。ちなみに私はお風呂も怖くなった。私は今でも家ではシャワーだけですませてお風呂にほとんど入らないが、もしかしたらそこに遠い原因があるのかもしれない。
逆の面もある。小学生の頃に見た『アマデウス』の影響で、私はモーツァルト好きになり、そのままクラシック好きになった。『スターウォーズ』は映画を好きになるきっかけになったし、『ネバーエンディング・ストーリー』は、本、そして古本屋に対する憧れをいだくきっかけになった。

さてこの映画。初めて見たのは高校生の時だった。
中学生の時、キューブリックという映画監督の存在を『フルメタル・ジャケット』を見て知って以来、ずっと取り憑かれていたのだが、その時代、80年代後半は、なぜかこの作品はリバイバル上映はおろか、ビデオでも見ることができなかった。おそらく、内容が過激だったため、上映禁止・販売禁止になっていたのだと思われる。
一度こんなことがあった。中学生の時、自主上映という形で、どこかの図書館で上映されるということを雑誌『ぴあ』で見つけた。たしか、王子とか、巣鴨とか、そちら方面に行った記憶がある。歩道橋が隣接している図書館だった。今思えば、実家の横浜からよくのこのこと出かけたと思うが、ともかく、中学生の私は勇んで出かけたものの、現地に着くと、大学生くらいのお兄さんたちが入り口付近で疲れた様子で体育座りしていて、なにかと思ったら、なんと上映が中止になったのだった。代わりに『バリー・リンドン』をやるという張り紙を見つけた。私は『バリー・リンドン』は、少し前に早稲田のATCミニシアターで上映したのを行っていたので、ようやく『時計じかけのオレンジ』を見ることができる!と思っていただけに、心底がっかりした。

そんなことで、今回初めて映画館で見ることができて、本当に、心の底から感動した。全く涙する映画ではないにもかかわらず、なぜかこみ上げてくるものがあった。実際、映画はとてもよくできていた。ここまで完成度の高い作品であったとは思わなかった。キューブリック作品の中でも、特に過激なシーンが多いため、なかなか家でゆっくり見る、ということがなかったから、多くのシーンを忘れていたので、映画館でしっかりみることができて、本当に、とてもよかった。
映画館で見てからというもの、私は毎日のようにベートーヴェンを聞いている。もちろん第九である。良くも悪くも、ルドヴィコ療法の作用だと思われる。

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