クラリスブックス 高松

 

新型コロナウイルスが世界的に猛威をふるい、当店は2020年4月16日から同年5月31日までの間休業した。6月1日からは店舗に対する営業自粛要請は特になく、飲食店も含め、少しずつ通常営業を始めた店も多かったように思うが、国や東京都が出してくるいろいろな数字は、今までの政治を見れば到底信じられるものではないので、当店は6月に入ってからは自主的に短縮営業をすることとなった。

さて、店舗営業を休業していた約一ヶ月半の間、私は毎日一人店舗に赴いた。仕事は、本の値段付けやネット登録。その他、思い立って急に新しく本棚を作ったりもした。店に一人引きこもっての仕事はなかなかはかどらず、ついつい本を読んだりパソコン上で映画を見てしまう。そもそも私は外交的な性質の人間ではないため、一人でいることが好きだ。そのため、この休業期間は個人的には大変有意義に過ごすことができた。もちろん、先行きの見えないコロナ禍を考えると、私の店のような小さな古本屋は生き残れないのではないか、少なくとも、店舗を畳んでネットオンリーにするしかないのではないか、といった考えが頭をよぎり、不安を感じないわけではなかった。それでも、そもそも私にはガツガツ儲けようという気があまりないため、どうにか生きていけるだろうと楽観的に考えていた。

この期間、本を読み、YouTubeとアマゾンプライムで映画や音楽を鑑賞するという生活を送った。正直なところ、こんな優雅な生活を続けていいのだろうかと思った。このままこうやって生きていけるのであれば、ずっとこのままでもいいのではないかとすら思うこともあった。ただ、少しずつ、何かが足りないと感じるようになった。それは映画館である。

私は映画館で映画を見るのが好きだ。そのために仕事をしていると言っても過言ではない。映画館に行けない。私は初めて見る映画は極力映画館で見たいと考えているので、YouTubeやアマゾンプライムで見る映画は今までに見たことのあるものばかり。映画館で映画を見たい。その想いは強くなり、精神的にじわじわと私を追い込んだ。それで、急に思い立ってDIYで本棚を作ったりしたのだが、なんとかその精神状態を保つことができたのは、音楽の力だった。
バッハやモーツァルト、そしてチャイコフスキーやラフマニノフを、誰もいない店内で一人大音量で聞く。その美しく悲しい旋律に心が震え、それらは私に自らを省みる時間を与えてくれたのだった。
何百年も聞き継がれてきたバッハ。彼の音楽がなぜ21世紀に生きる私の心の中に響き渡るのだろうか。おそらくそこには普遍的な「何か」が存在するのだろう。時空を超えて響き渡る波紋を受け止める心を持っている私は幸せ者である。

休業期間中、私はいままで聞いていた曲、そしてあまり聞いていなかった曲を、兎にも角にも聞きまくった。そして、ますます音楽というものの偉大さを思い知ることとなった。細かく分割していけば、それらは単なる音の集合でしかなく、しかもその音は振動によって空気中を伝って我々の耳に入ってくるだけにすぎない。しかし、その一音一音がある一定の法則の下に集合することで、我々の心を震え上がらせる。それはもはや、神秘、奇跡と言っても過言ではない。

コロナ禍で我々はいろいろな経験をし、勉強できたはずである。良くも悪くも、こういった緊急事態下にあっては、その行動にその人その人の人間性が出る。私はそれらを観察するのが面白く、時には勇気づけられ、励まされ、あるいは残念に思うこともあった。
2020年6月現在、まだまだ未来は不透明で、金儲け主義の犠牲になった人たちを見ると悲しみと怒りでいっぱいだ。気持ち悪いカタカナ語が飛び交うのをうまく避けつつ、我々は自分の頭でしっかり考え、判断し、そして行動することを迫られている。

 

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