文・クラリスブックス 高松

2018年も残りあと僅か。今年もたくさん映画館に行くことができた。年末のこの時期から駆け込むように映画館に行く予定もあるので、まだまだ名作、心に残る傑作に出会う機会はあると思うが、ひとまず、今年見た映画で印象に残ったものをまとめようと思う。

ところで私は小さい頃から映画館に通っていて、そこで育てられたようなものなので、見た映画というのは、映画館で見た映画ということになる。家で見て印象深い傑作にも多く出会うことができたが、映画は映画館の思い出とともに心の中に留めておきたいと思っている。

さて、そういう意味では、まず、『ミツバチのささやき』を映画館で見ることができたのは、とても重要な出来事であった。
何を今更と思われる程の、すでに古典的名作という位置づけのこの作品、実はDVDも持っているのだが、10年以上前からだろうか、いつしか直感的にこの映画は傑作に違いないと勝手に思い込み、絶対映画館で見たい!と思っていた。そのため、話の内容など、あらゆる情報をシャットアウトしていた。そして、ようやく映画館に足を運ぶことができたのだった。
1週間の期間限定で上映してくれたユジク阿佐ヶ谷にはほんとに感謝している。いつも素晴らしいプログラムで、すぐ近くにラピュタ阿佐ヶ谷もあり、こちらでは昔の日本映画を数多く上映していることもあり、正直、阿佐ヶ谷に引っ越したいとすら思ってしまったくらいだ。

それと同じような境遇にあった作品は他にもあるが、今年見ることができたのはなんといっても『暗殺の森』。このベルトルッチの名作を東京都写真美術館で見ることができたのは幸運であった。30歳という若さでこの作品を撮ったベルトルッチ、天才という他ない。
写真美術館繋がりで言うと、2014年公開のポーランド映画『イーダ』は傑作だった。モノクロの美しく落ち着いた映像、ほんとに圧倒された。私はあまり新しい映画は見ないけれど、ここ数年で見た新作の中では群を抜いていた。
ところで後から日本版の予告編を見たが、作品とのギャップの違いに驚いてしまった。女優のナレーションとともに、少女がいろいろな経験を経て一人の大人の女性に成長するといった、いわば青春映画的印象が強く、そこには歴史の波に翻弄されたポーランドという国の悲劇も、聖と俗の乖離の深さもなにも感じられなかった。ただ、映画のプロモーションは難しい。真っ向勝負の宣伝をしたところで観客はごくごく一部になってしまう。一人の女性の成長の話という切り口で持っていけば多くの人に見てもらえる。私は全く関わった事はないが、外から眺めると、つくづく、映画の宣伝というものは難しいものだと思う。

さて、つらつらと心に残った作品を挙げていこう。
まだまだ残暑厳しい時期、イメージフォーラムで上映していたタイの監督アピチャッポンの『光りの墓』を見に行ったが、これまた素晴らしかった。こちらも数年前に公開されていて、つい見逃してしまっていた作品だ。「眠り病」という不思議な病に冒された兵士たちが静かに寝ている病院が舞台で、公開当時見た人によると、そんな内容も相まって、睡魔との戦いだったとのことで、こういう映画こそがんばって映画館で見ないと、と考えていた。音楽の使い方が素晴らしく、全く新しい映画を見た、という印象。

同じイメージフォーラム繋がりで、時間を正月に戻すと、2018年、一番最初に見た映画はこれまたガツンとくるものであった。ブニュエルの『皆殺しの天使』。正月早々、このシュールで不条理な傑作を見たのは、果たしてよかったのかどうなのか。
夏には映画史上にその名を残す傑作も見ることができた。シネマヴェーラで見た『メトロポリス』だ。そのシネマヴェーラではその他多くの作品に出会うことができた。『レベッカ』はヒッチコックの大作で、これは絶対見ておけ!といろいろな人に言われ続けて数年、ようやく行く事のできた傑作。さらにこちらでは、フリッツ・ラング特集を組んでくれたお陰で、上の『メトロポリス』と同時期に『死刑執行人もまた死す』『ハウス・バイ・ザ・リバー』に出会うことができた。ところで年末年始にかけて、シネマヴェーラでは蓮實重彦監修のもの、これまた傑作アメリカ映画の数々を上映している。これから数回行く予定、楽しみでしかない。

いわゆるハリウッド映画では『レディ・プレイヤー1』が素晴らしかった。40代の私にはドンピシャな内容。そしてなにより、この映画ではキューブリックのあの名作の世界に没入することができるのだ。それだけでも見る価値充分。

また今年は、チェコアニメの素晴らしさを味あうことができた。チェコアニメの巨匠、ヤン・シュヴァンクマイエルが引退宣言をしたことにより、期間限定ながらアップリンクで特集を組んでくれた。また、ユジク阿佐ヶ谷ではシュヴァンクマイエルの『不思議の国のアリス』の上映。こちらでは、現在大々的にチェコアニメ特集をやっていて、先日さっそくいくつか見てきた。

忘れてはならないのは、春先に新宿のK’s CINEMAで見たエドワード・ヤンの『恐怖分子』。「洗練された」とか「美しい」などという言葉で表現される映画ではなく、むしろ、映画はこんなことだってできるんだよ!と叫んでいるようで、ギラギラみなぎる力が画面から溢れ出ていて、その力に圧倒されてしばし茫然自失。後の『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』に繋がるエドワード・ヤンの問題作、とでも言おうか、なんとも恐ろしい映画であった。

 

まだまだいろいろある。テアトル新宿で見た日本映画の『寝ても覚めても』は、数年前、柴崎友香原作の小説を読書会で取り上げたということもあり、なんとなく思い入れがあって見に行ったら、久々日本映画の傑作、ガツンとくる、ホラー恋愛映画とでも言いたくなる作品だったし、『遊星からの物体X』を丸の内ピカデリーのあの巨大スクリーンで見ることができた幸せや、午前十時の映画祭で『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』を数十年ぶりに劇場で見て、映画もさることながら、公開当時見に行った自分自身を顧みてこみ上げてくるものがあったりと、なんともまあ大変な一年であった。
結局、今年50回以上映画館に行っているが、なにが一番よかったかなんて決める事はできない。10月に見た『2001年宇宙の旅』と、K’s CINEMAで『恐怖分子』と同時期にかかっていた『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』、どちらがいいかなんて私には決められない。数字や星の数で評価するのは得意じゃないし、順位を決めるのも苦手なので、上に挙げたタイトルは、「心に残った作品」という曖昧なものになる。
これは私の勝手な備忘録的なブログだが、ここまで読んでくれた方で、挙げたタイトルのかなりの部分に共感してくれる方は私と趣味が合うと思われる。逆に、『ミツバチのささやき』つまらなかった、『暗殺の森』わからない、アピチャッポン、眠い(確かに眠くなるけれど)、『イーダ』退屈、などという感想の方とは、残念ながら永遠に交わる事のない道を歩んでいると思われる。

まだまだ未見の傑作は山ほどある。私の見た映画など、ごくごく一部にすぎない。生きている間に、どのくらい見ることができるだろうか。つくづく、映画は奥が深いと思う。