先日、ふと思い立って東京タワーに行きました。古本の仕入れで都心のデザイン事務所やスタジオなどにお邪魔した際の帰り道、脚のすぐ横を車で通り過ぎることはよくあったのですが、展望台までのぼったのは十年くらいぶり。それどころか、東京生まれの東京育ちなのに生涯で二度目です。大学生のとき、実はあれにのぼったことがないと打ち明けると、地方出身の面々にほとんど憤るように驚かれ、慌ててのぼったのが確か一度目でした。
嫌いだからのぼらなかったわけではなく、むしろ好きです。世界中のほかの様々なタワーと比べても、あれはかなりかっこいい姿をしていると思います。特に脚元から見上げるのが好きです。巨大な鉄の三角形がいくつもいくつも、しだいに遠く細かく網目状に重なりながら、ひたすら尖端目指して連なっていく。口を半開きにして見惚れてしまいます。
のぼるよりも見る方が楽しい、というと思い出すのは富士山で、僕は中学・高校と六年間ワンダーフォーゲル部に所属していていまも登山が趣味であるのに、富士山には一度ものぼったことがありません。「富士山はのぼる山ではなく、ほかの山から眺める山である」というのが恩師の教えで、これをもっともだと思い忠実に守ってきましたが、実際に富士山にのぼったことがないからには本当は何も言えません。
ただ、すくなくとも確かなのは、奥多摩・奥秩父の山々から眺める富士山は実に素晴らしいのに、富士山にのぼってしまうとその山容を眺めることが絶対にできなくなるということ。当たり前ですが、富士山から富士山を眺めることはできないのです。こんなにもったいないことはないと思います。この点やはり東京タワーも同じで、タワーに入るとタワーを眺められないのが残念です。
とは言いつつ、もちろん展望フロアからの東京の夜景はとてもきれいでした。ここから降りて一歩街へ出れば、自分も無数の小部品のひとつとしてこの景色の成立に貢献するのだ、ということがうまく信じられません。
二階のおみやげやさんにも寄りました。
ゆるキャラを前面に押し出したコーナーがあるかと思うと……
その横の薄暗い一角には韓流スターのプロマイドや招き猫の置物などがぎっしり詰まっていて、さらにはショッピングモールのようなフードコートまであって、このフロアはとても絶妙な雰囲気を醸し出しています。自分がどこのいつにいるのだかわからなくなってしまいそうでした。この混沌もまた、東京タワーの魅力のひとつといえそうです。
夜景だけでなく、実はいろいろ盛りだくさんの東京タワー。昨今、二本目の電波塔の方に人々の関心が集まっていますが、こちらもとても楽しい施設です。820円でこれだけ楽しめるところはそうはないと思います。季節柄、外には大きなクリスマスツリーもあって、イルミネーションがきれいです。ぜひ遊びに行ってみてください。
石鍋
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