店主の高松です。

おすすめ本の紹介として、このブログでドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を書こうと思ったのですが、私が書くと、いわゆるネタバレ満載の文章になってしまいますので、おすすめ本紹介ブログというよりは、私個人の「カラマーゾフ」体験とでも表現できるようなことを書こうと思います。

おすすめ本であることには間違いないのですが、「カラマーゾフの兄弟」という作品に関して言えば、私としては思い入れが極端に強く、どうしても内容に踏み込んでしまう文章になってしまうので、もしまだ読んだことのない人は、ここから先は読まないでください。「カラマーゾフの兄弟」は、サスペンス的要素をも盛り込んだ作品ですので、そこは実際読んで面白さを直接体験していただきたいと思うのです。

ここから先、ネタバレ注意! 

さて、私が最初にドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を読んだのは、たしか大学2年の時だったと思います。新潮文庫で、原卓也訳でした。今でも鮮明に覚えていますが、ラスト近く、イワンとスメルジャコフの「最後の対面」のシーン、スメルジャコフが靴下の中にずっと隠し持っていたお金を雑然とイワンの前に放り出し、父親殺しを告白するシーン、そして「あんなに頭のよかったあなたがなぜわからないのですか!」とイワンに対して絶叫する、まさに彼の魂の叫びのシーンに直面した時、ずっと座って体を動かさずに読んでいた為、体が硬直状態になっていたのが主たる原因だと思いますが、私はその時“幽体離脱”を体験したのでした。よくある体験談と同様に、自分の背後上方から、自分自身の姿を眺めることができたのでした。硬直状態にあった私の体に、心を揺さぶる衝撃波が伝わった為に起った現象だったと思っています。

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▲大審問官 (Y・トゥルルイギン画、新潮社 ドストエフスキーアルバムより)

新潮文庫の第3巻目に登場するこのシーン、いままで読んだ小説の中で、ここまでの衝撃、ここまでの感動を体験したことはなく、そして、これからも体験し得ないだろうと思っています。ドストエフスキーから多大な影響を受けた日本の作家埴谷雄高が、哲学ではなく文学という道具を用いることで自己の思想を表現しようとしたのは、まさにこういった体験をすることができるからなのだと、その時わかりました。文学の可能性というものは、結局のところ、人間の可能性と同義なのだと思えます。

よく「カラマーゾフの兄弟」は難しい、長いから読むのが大変と言われます。まず、長いというのは本当です。文庫本で、出版社によって異なりますが、分厚いもの3冊、あるいは4冊です。確かに長い作品です。しかし、だから難しい、というのは間違った解釈だと思います。もちろんこの作品、人類の歴史上、最高最強のこの文学作品を理解するのは難しいことです。キリスト教の知識、ロシアという風土、時代背景などなど、いろいろなことを考え合わせた上で、作者ドストエフスキーの思想が浮かび上がってくるのだとしたら、真に理解するのは難しいことです。しかし、ある作品を理解するということと、その作品で感動するということとは、全く異なる出来事だと思います。だから、「難しい」という表現は、理解するということに関していえば、確かにそうかもしれないですが、でも理解ではなく、感動するということ、言葉や文章では表現できない心を揺さぶる感動、は決して難しいことではないはずです。私はキリスト教徒ではありませんが、イワンの語る「大審問官」で、その物語の主人公である老大審問官が、復活したキリストから自分の乾いた唇にそっとキスをされたときに受ける稲妻のような衝撃波を、読者である私も同じように体感できるというのは、民族や人種、宗教すら超えた何かもっと根源的なもの、人間であればだれでも持ち得る普遍的価値観がそこに描かれているからに他ありません。それはつまり、人間であれば誰でも持っている心の動きなのだと思います。そして世界文学というものは、時代や場所を問わず、時空を超越して、そういった人間の根本的な心の動きを呼び起こしてくれるものなのです。

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▲グルーシェニカ(V・ミナーエフ画 論創社 ドストエフスキー 写真と記録より)

現在クラリスブックスには、光文社文庫の「カラマーゾフの兄弟」全5冊揃いがあります(2013年11月現在)。亀山郁夫さんの訳のものです。初版は2006年ですが、こういった古典的名作としては、出版当時かなり話題になり、100万部以上売れたベストセラーとなりました。どの時代でもどの場所でも読まれ続けるのが世界文学である、という定義がそのまま当てはまる結果だと思いますが、亀山郁夫さんの訳が時代に即した読みやすいものになっていたというのも影響していると思います。大学時代に読んでからすでに15年以上経ちましたが、この新訳が出版されて少し経ってから、私は再度この名作を新訳で読み返しました。幽体離脱はしなかったものの、やはり心を揺さぶられる、いや揺さぶられるどころか、心臓を鷲掴みにされるような感動を得ることが出来ました。

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▲反逆—イワンとアレクセイ
(M・ロイテル画、新潮社 ドストエフスキーアルバムより)

学生時代に読んだ時にはあまり印象に残らなかったシーンが、この新訳ではかなり深く残り、私が年を重ねたせいか、あるいは新訳のせいかわかりませんが、思わぬ発見、衝撃が随所で見受けられました。ゾシマ長老の死から始まる「死臭」。その聖と俗の極端なまでの、聖と性以上の、もっともかけ離れた生々しい対比、そしてそれによって突き動かされるアリョーシャの心的変化。あるいは中盤以降、長兄ドミートリーがワインや食べ物をたらふく買い込み、贅沢三昧を繰り広げる豪快なシーンなど、挙げだしたらきりがありませんが、とにかくこの新訳は読みやすく、新潮版や岩波版等で一度読んで、いまいちな感想をお持ちの方は、ぜひこの新訳を再読されることをお勧めします。

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この作品については言いたいことはまだまだ山のようにありますが、ブログとしては長くなりすぎますので、また改めて機会があればこのブログで書き記そうと思います。ブログにもかかわらず、長々と失礼しました。

 高松

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