文・石鍋健太
こんにちは、みなさんお元気ですか。私は先週末からインフルエンザにかかってへろへろでした。小さな子ども二人にもうつしてしまい、みんなへろへろ。そんななか、ひとり踏ん張って元気だった妻に感謝です。
さて、病気話・苦労話を並べても詮ないので、古本屋らしく本を紹介しましょう。
吉行淳之介「童謡」(1961年)
病床に入ると、かならずこの作品について思いをめぐらします。吉行淳之介の超名短篇。高熱が引かずに入院した少年の物語。
「高い熱は、そのうち下ってくる。君は、高い熱の尖った頭をうまい具合に撫でて、まるい小さな頭にすることができるようになる。微熱というのは、いいものだ。そうなれば、君は布団の国の王様になれる」
体がだんだんと治癒していく過程で通る、「布団の国」制圧の瞬間。床を抜け出るにはまだ危うすぎるが寝ている分には平穏で無敵、そんな絶妙などっちつかずの時期を不謹慎にも楽しむこと。きっと誰もが実感として知っている感覚でしょう。
最初は少年を慰めるために、そしていくぶんうらやましがりながらその感覚について話していた「病気馴れのした青白い顔」の友人。彼の存在感が、病の進行とともに少年のなかで微妙に形を変え、病を通り過ぎてからもなお影のようについてくるあたり、読後しばらくなんか気になって、そわそわ落ち着かない気分が続きます。なので病後読むにはあまり適していないかもしれませんが、「布団の国」を抜け出すやいなや、なぜか読みたくなる一篇。私にとって、もはや病床とは切り離せない作品です。
ところで、この「童謡」がどの本に入っているのかすっかり忘れてしまっていたので、自宅の本棚から久々に吉行淳之介の本(ほとんど新潮文庫)を手あたり次第抜き出しているうちに、これを見つけました。
『奇妙な味の小説』吉行淳之介/編 1988年、中公文庫
1970年に立風書房から初版が出たアンソロジー。「奇妙な味」をキーワードに吉行が集めた16篇が収録されています。この文庫本を古本屋で買ったのはたしか大学2年生の時のこと、どれもおもしろくて興奮したのをよく覚えています。とくに柴田錬三郎の「さかだち」というのがすごくよかった記憶があって、10年ぶりくらいに読み返してみたらやっぱりすごくよくて感動しました。このなかには吉行自身の「手品師」が入っていて、これもかなりよいです。
このアンソロジーをきっかけとして、読書の幅がぐんと広がったような気がします。あえて目次は伏せておきますが、ご興味がおありの方はぜひ。たぶん適当に古本屋めぐりしてたらいつか300円くらいで見つかるはず。風邪やインフルエンザには気をつけつつ、探してみてください!
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