こんにちは、店主の高松です。5月11日(日)に開催された読書会、課題図書はドストエフスキーの『罪と罰』、無事終了いたしました。ご参加いただきました皆様、誠にありがとうございました。

クラリスブックス読書会ドストエフスキー罪と罰

クラリスブックスで開催する読書会は、今回で5回目となります。当店は昨年2013年12月1日に開店しましたので、今年の1月から、月に一回のペースで読書会を開催していることになります。細く長く続けられるよう、このペースを保っていきたいと思っております。

クラリスブックスの読書会、および今までの読書会につきましては、こちらをどうぞご覧ください。

さて、今回の課題図書、ドストエフスキーの『罪と罰』ですが、とても分厚い大著であり、同時に世界文学の最高峰といっても過言ではない大作、傑作であります。一ヶ月以上前からこの読書会開催の告知をしておりましたが、なかなか最後まで読み切るのが大変で、読み終わらずにご参加いただいた方もいらっしゃいました。それでももちろん結構です。みんなで一つの作品を読む、読み終えた方、大絶賛の方から意見を聞ける、それが読書会の楽しみの一つだと思っております。

実際『罪と罰』は、ほんとに有名で、世界文学全集などにも必ず入っている作品です。またその為、今回の読書会には、この作品に特に思い入れのある方、ロシア文学が好きで研究などをされている方もいらっしゃるのかな、とも思っておりました。しかし実際はむしろ逆で、今まで読んだことがなかったので、この機会に読まれた方、ロシア文学って、どこか暗くて重いイメージ、だから読書会で取り上げられたので読んでみた、という方が多かったように思います。
クラリスブックスとしては、それはとても嬉しいことでした。読書会の敷居を低く、参加者全員が一緒になって読んでいく、というスタイルでいいと思っています。研究会や勉強会という形になれば別ですが、ここまでの大作ですので、これからも、特に大作を取り上げるときは、読み終えていなくても、興味さえあればどなたでもご参加いただける会として続けていこうと思います。

クラリスブックス読書会ドストエフスキー罪と罰

さて、この作品を読んで、まず皆さんがほぼ口を揃えて言っていたことは、登場人物の名前がわかりづらいということ。そして、文章が “まどろっこしい”。
過剰な表現、くどい言い回しなど、そのことが原因で、なかなか登場人物たちに感情移入できなかった、作品の世界にのめり込めなかった、という意見がありました。

一方で、むしろそのような “まどろっこしい” 表現によって、かえってこの作品に没入できた、少し敬遠していた世界文学、やはりすごい!と思った、言葉の連ね方、過剰さが程よく、逆に重要な場面ではあっさりとしているところなど、さすが、という意見もありました。

私はと言えば、この “まどろっこしい”表現がむしろ心地よく、この作品の世界に、そして当時のペテルブルクに一気に入り込む事が出来たのでした。少し前のブログでも書いていたかと思いますが、私にとって、この『罪と罰』がドストエフスキー作品との最初の出会いでした。それは浪人時代のことでした。そして今回、20年くらい経って再読したのですが、読後の印象はかなり異なりました。

20年前に読んだ時は、主人公ラスコーリニコフが老婆の金貸しとその妹リザヴェータを殺害するシーンや、その後、判事ポルフィーリイに少しずつ追いつめられるその雰囲気、さらにスヴィドリガイロフの気持ち悪い人物像が特に印象に残っていたのですが、今回読み直して、ラスコーリニコフの妹ドーニャを取り巻く恋愛群像物語、さらにソーニャとキリスト教との関連(ソーニャ=マグダラのマリア?)、そしてスヴィドリガイロフの哲学にも注目することができました。江川卓の『謎解き罪と罰』という本がありますが、そんな本があるように、確かに謎の多い作品なのだな、と思い知らされました。

クラリスブックス読書会ドストエフスキー罪と罰

いろいろなデータベース上の『罪と罰』の内容紹介には、「頭脳明晰だが貧乏な大学生ラスコーリニコフが、いわゆる “超人思想”によって、高利貸しの老婆を殺害するも、偶然居合わせたその妹をも殺害してしまうことによって、罪の意識に苛まれ・・・」などとあります。しかし、この “超人思想”なるものは、あとから取って付けたようなものなのではないか、そして、実際自身の行いを正当化する為に、あとから取って付けたものなのだ、ということを作者ドストエフスキーは我々読者に伝えたかったのではないか?と思えてなりません。確かにこの作品のあらすじはと言われれば、そのように書くしかないかもしれません。それは否定できないのですが、この作品には、一人の犯罪者の心の奥の奥、おそらく今までの世界文学作品では決して汲み取る事が出来なかった最深部を徹底的に描ききっている、もしこの『罪と罰』という作品が優れているところはどこ?と聞かれれば、私はそのように答えるでしょう。

20年前に読んだ時にはあまり気に留める事が出来なかった、あるいは他のところが衝撃すぎて、そこまで気が回らなかった登場人物たち、特にラズーミヒンとルージン。いい友達すぎて泣けてしまう、実際エピローグでは泣いてしまいましたが、そんなラズーミヒンは、その後の文学作品さらには映画などの、“いい友達”の典型になったように思えます。そしてルージン。彼のダメダメっぷりも同様で、彼は “ダメダメ男”の系譜の原初になっているように思えました。それはつまり、かなり極端化された表現、一番最初に書いた、まどろっこしい、しつこい、過剰な表現の結果なのかもしれません。

そう考えると、少しご都合主義的な場面展開、そして人物描写等、物語全体としても、この『罪と罰』は、現在の推理サスペンス、探偵小説、ドラマや映画の刑事モノなどの出発点なのでは?と考えられなくもないように思えます。

世界文学の中でも、ひときわ異彩を放ちつつ、そして最重要作品と考えられている『罪と罰』。おそらく誰もが知っているであろうこの名作は、語っても語っても、決して語り尽くせない幅と深みを持っています。今回私があえてこの作品を読書会の課題図書として持ち出したのは、少しでも多くの方にこの名作を読んでもらいたかったからです。クラリスブックスとしては5回目となる読書会でしたが、今までで一番たくさん人が集まりました。それはとてもとても嬉しいことでした。重ね重ね、ご参加いただきました方々、誠にありがとうございました。

ドストエフスキーの作品に関しては、出来れば年末にもう一度取り上げたいと、勝手にもくろんでいます。

クラリスブックス読書会ドストエフスキー罪と罰

▲シベリアのラスコーリニコフとソーニャ(シマリノフ画 1955年 『ドストエフスキー写真と記録 論創社』より)

日本ではいろいろな翻訳の『罪と罰』があります。昔の全集類(筑摩書房版など)は除き、今回の読書会で皆さんがお持ちいただいたものをこちらに列挙しておきます。

・亀山郁夫訳 光文社古典新訳文庫 全3冊
・江川卓訳 岩波文庫 全3冊
・工藤精一郎訳 新潮文庫 全3冊
・米川正夫訳 河出書房新社『ドストエーフスキイ全集』第6巻
・米川正夫訳 角川文庫 全2冊

次回の読書会は、6月8日(日)、課題図書はアルベール・カミュの『異邦人』です。詳細はこちらからどうぞ。

皆様のご参加、心よりお待ち申し上げております。

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