airi. ワークショップ&トーク「本屋で写真を読む」 イベントレポート01

当店で開催中の写真展「Rの話し」に合わせて、9月21日夜、写真家airi.さんによるワークショップ&トークイベントを行いました。

airi.写真展ワークショップ東京下北沢古本屋クラリスブックス

テーマは写真と言葉。いかにも多くの矛盾と挫折の予感を孕んだ両者の関係の只中にあえて飛び込み、そこから生まれる可能性について考えまくる充実した時間でした。当ブログにて2回にわたってレポートします。

1回目は、ワークショップ「本屋で写真を読む」の前段、写真家の自己紹介や会の主旨説明を兼ねたトークについて、個人的な感想を交えつつ書きました。

airi.写真展ワークショップ東京下北沢古本屋クラリスブックス

文・石鍋健太

■ “R” の音の響きを軽く聞いてもらうくらいがいい

自分の写真について語る時、airi.さんはとても流暢に、と同時に慎重に言葉を連ねていく。表情はあくまで涼しげだが、静かな情熱が伝わってくるような話しぶりだ。その情熱が、切羽詰まった自己表現や主張から遠く離れているようで、聞いていて心地よい。たぶん彼女のなかにはとても純粋な探究心があって、それが大事すぎて“自分”みたいなものにこだわっている暇などないのかもしれない。曖昧で捉えがたい不思議な何かをどうにかして言語化したい――それだけを欲望しながら、彼女は真剣に喋る。

airi.写真展ワークショップ東京下北沢古本屋クラリスブックス

そのなかで、“関係性”という言葉が繰り返しつかわれた。撮影者と被写体の、あるいは複数の被写体同士の関係、シャッターを切る瞬間とそれ以外のあらゆる瞬間との違い、カメラのレンズから被写体までの距離感、自分と写真との付き合い方、そして写真と言葉の関わり合い。込められる意味は様々だが、彼女は写真における“関係性”について長らく考えを巡らせてきたのだ。その思索の出発点は、写真への興味が芽生え始めた中学生時代だったという。

「たとえば仲のよい子と一緒に写ると、その写真のなかの自分はいつも自然でいい表情をしている。それはなぜなんだろう、と思ったのが始まりでした。誰がどのように撮るか、一緒に写る人が誰かによって、被写体の表情や容貌がまったく違ったものになるということが、とても不思議だったんです」

当時抱いた素朴な“不思議”を、彼女は大学卒業後に移り住んだパリにおいて自らの目と手で追求していくことになる。その成果である2冊を紹介しよう。

airi.写真集Histoire of R 東京下北沢古本屋クラリスブックス

『Histoire of R』

2012年 1,800円

250×195mm

airi.写真集SABAKU 東京下北沢古本屋クラリスブックス

『SABAKU』

2012年 1,600円

230×158mm

 

ほぼ同時期に完成した、airi.さん初めての作品集である。『Histoire of R』の写真は主にパリで4~5年間かけて撮りためたものであり、『SABAKU』には、アルジェリアの南方の砂漠に1週間ほど滞在して撮影した写真が収められている。テーマも趣向も異なるこの2冊の共通点は、「何も限定しない」姿勢でつくられたということ。

「写真は特定の場所や時間を明確にすることが多い。写真集としてまとめる場合はなおさらそうです。それはひとつの見せ方に過ぎないのに、まるで撮る側にとっても見る側にとっても当たり前の前提のようになってしまっている。私は逆に、場所や時間といった何かを限定するような要素を、なるべく薄めていきたいんです」

2冊の作品集を眺め、彼女の話を聞いていると、写真家airi. が目指す”関係性”のあり方が見えてくる。ような気がする。

airi.写真集Histoire of R 東京下北沢古本屋クラリスブックス

airi.写真集SABAKU 東京下北沢古本屋クラリスブックス

airi.写真集SABAKU 東京下北沢古本屋クラリスブックス

airi.写真集Histoire of R 東京下北沢古本屋クラリスブックス

特定の対象のなかにある何かを引き出したり、目の前に拡がる世界を何らかの枠にはめこんだりする気は毛頭ない。彼女が写真に求めているのは、“そのとき・そこ”に漂う何か、としかいいようのない曖昧なものをあらわす力なのだと思う。そしてその何かだけを自分が感覚したとおりにあらわすためには、“そのとき・そこ”にまつわる意味や情報をなるべくそぎ落とさなければならない。だとしたら、彼女にとって写真を撮る行為とは、まるで“そのとき・そこ”から一瞬自分が消えてなくなるような体験なのかもしれない。しかしもちろん、シャッターを切るのはほかならぬ彼女の意志であり指であるので、何一つ限定しない写真なんて絶対に撮れない。

彼女はそういう矛盾とか不可能性とかを承知した上で、だからこそ写真における多層的な“関係性”を大事にし続けてきた。“そのとき・そこ”に漂う何かをなるべく意味から遠くへ逃し、しかも曖昧なままにつかまえるには、自分はその何かとどう距離をとればよいのか、自分と世界とはどのような関係を築けばよいのか――そんなことを、意識と無意識の境を揺れ動きつつ探り続けた軌跡そのものが、この2冊の作品集なのではないだろうか。

airi.写真集SABAKU 東京下北沢古本屋クラリスブックス

airi.写真集Histoire of R 東京下北沢古本屋クラリスブックス

今回の写真展のタイトル「Rの話し」について、彼女は次のように語る。

「“R”というのはもともと、写真集『Histoire of R』に入れる写真を選んでいる時に、いつの間にかなんとなく浮かんだ一語。フランス語で発音すると、『空気』を意味する ” Air ” と同じです。といっても、『空気の物語』という意味付けがしたいわけではなくて、もう少し曖昧にしておきたくて、音の響きを軽く聞いてもらうくらいがいいな、と思っています」

タイトルの由来の説明としてはとらえどころがなさすぎる話なのに、なぜかしっくりくる。彼女の写真の数々が鮮明に脳裏に浮かんでくるような不思議な物言いに、思わず頷いてしまう。と同時に、当然の疑問が頭をもたげる――そんな彼女がなぜ、写真を言葉で限定するようなワークショップをわざわざ行うのか。次回のブログでは、ワークショップのレポートを通じてそのあたりのことを書きたいと思う。

airi.写真展ワークショップ東京下北沢古本屋クラリスブックス

airi.写真展 「Rの話し」 開催中

◆日程 9月13日(土)~28日(日)

12:00~20:00(日祝~19:00)

◆会場 クラリスブックス(下北沢駅北口徒歩5分、一番街商店街沿い)

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