3月1日(日)に読書会が開催されました。課題本はコンラッド『闇の奥』。当日は生憎の雨模様で特に読書開始の夜7時頃はかなり荒れて、激しい雨が降っておりました。天気が悪い中、今回も定員一杯、読書会にお集まりいただきました。ありがとうございます。当店の読書会は台風が近くにいるとか、猛烈な暑さとか、極端な天候に見舞われることがわりとあります。
『闇の奥』中編。19世紀の終盤に発表され、今も人気があり読み継がれている。冒険小説として比較的平易に読める。実際読み始めるとぐいぐいと引き込まれ一気に読める。今回の読書会の参加のみなさんも全編読み終えていたようです。しかし一気に読み終えたはずなのに読後は何かずっしりと重い荷物を引きずったような思いが皆の胸に去来したようです。今回の読書会は今までになく、重苦しい雰囲気につつまれ、うまく言葉が見つからないもどかしさを感じました。それは私だけだったのでしょうか。
アフリカの奥地で消息を絶った象牙商人のクルツを、主人公であるマーロウが救出すべく河を遡り奥深いジャングルへとクルツの道を辿る。そこでマーロウが見たものは。という単純なストーリーなのですが、何をもってこの作品に重量感を与えたのか、みな何に強い印象を受けたのか。
この小説の語りかた。ある晩に船乗り仲間が集まっている。その中に「私」もいる。そしてその中の一人であるマーロウがクルツの物語を語り始め、ほぼ全編がマーロウの台詞で構成されるという不思議な入れ子構造の語り。
圧倒的な風景描写。ヨーロッパにはない力強い太陽光とそれが生み出す深い深い密林の闇の世界。マーロウやクルツの精神世界にまで食い込み、魅了すると同時に恐怖のどん底へと突き落とす、密林と現地人が織りなす闇の奥の描写。
そしてマーロウとクルツの物語を辿る我々も様々な思いに捕われます。
「肝心のクルツの存在感が薄いのではないか」「何故マーロウはクルツへと引き込まれていったのか」「マーロウとクルツの婚約者との会見の意味は何なのか」「クルツは何故狂ってしまったのか。というかそもそもクルツは狂っていたのか」「クルツの死の間際に発せられた言葉の意味は。彼は何を恐れたのか」
様々な謎が提示され、何か腑に落ちたかと思うと、新たに首をひねる。そんな展開がすすむうちに今回の読書会は何となく皆の口が重くなってきたように思いました。人間の精神世界に潜む闇の奥の奥へ。何となく手が届きそうで結局掴むまでには至らなかったようです。中編の小説でしたが、大きな宿題を課せられたような気がしました。そして『闇の奥』が長く多くの人に読み継がれているのかもわかったように思います。
また『闇の奥』は映画『地獄の黙示録』の原作としても知られており、私もこの映画からこの小説を知りました。『地獄の黙示録』の監督のフランシス・フォード・コッポラは1970年代なかばに当時のベトナム戦争をテーマに映画の構想を立ち上げ、『闇の奥』のストーリーを骨格に映画を製作しました。映画はベトナムのというより、戦争そのものの狂気を描くにあたり巨額を投資し、『闇の奥』よりもスケールの大きいアクション巨編となっています。映画の完成までコッポラは『闇の奥』を読みつつ、撮影中の作品の手助けとしていたようです。これは私の感想ですが、この映画も、戦争、あるいは人類の狂気の根源へと辿り着かなかったように思います。でも『地獄の黙示録』もまた『闇の奥』と同様、重層的な謎が仕掛けられた傑作だと思います。
最後に『闇の奥』という日本語タイトルに関して。
今回の読書会で『闇の奥』という日本語タイトルが素晴らしいということは、全員一致で納得。ほんとかっこいいですよね。原題の「Heart Of Darkness」は訳すると「闇の心臓」「闇の心」「闇の鼓動」「闇の芯」等の方が意味としてはしっくりくるのですが、「Heart」に「奥」という単語をあてるセンスは凄い。この作品の日本での人気はこのタイトルのかっこよさもかなりの一因となっているのではないでしょうか。
さて次回の読書会ですが、19世紀のアフリカの奥地から一気に現代日本へ戻ってきます。
取り上げる課題本は、柴崎友香さんの2010年の作品『寝ても覚めても』です。
次回は4月5日(日曜日)夜7時からの開催となります。
詳細はブログにあげておりますのでこちらをご参照ください。
2015年4月5日読書会開催、課題図書、柴崎友香『寝ても覚めても』
石村
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