8月3日読書会レポート 真夏の夜の乱歩

九州の西をゆっくりとした速度で通過していった台風の影響で、南からの湿った空気が吹き込み、昼間にうだるような熱気をもたらし、陽が落ちてもそのままじめじめとした不愉快な暑苦しさが続く8月3日の夜7時、夜の街の風景もどこか重たげな世田谷は下北沢の、とあるビルの薄暗い狭い階段を、昼間の暑さに疲れた身体をひきずるように昇り、辿り着いた2階にある「クラリスブックス」という名の古書店で、『江戸川乱歩』をテーマとした今回の読書会が開催された。こうしてあの晩のことを振り返ろうとして思うことは、あの楽しい時間は昼間の熱にうなされてみた夢ではなかったのだろうか、あの場に集い語り合った人々も、夏の夜の一瞬の幻だったのではないだろうか、と思うくらい時は過ぎ、気づいてみるとあっという間に宴の夜は更けていった。。。

乱歩風を気取り書き出しましたが、似ても似つかない文章になりました。気を取り直し、8月3日(日)に行なわれました読書会の報告です。ここのところ参加人数が10人以上の大所帯の読書会が続いたのですが、暑さのせいで体調を崩された方もおられ、直前のキャンセルがあったため、スタッフを含め8人とこじんまりとした感じの会となりました。

 

下北沢古本屋クラリスブックス江戸川乱歩読書会

今回は課題図書を一冊決める形にはせず、『江戸川乱歩』の書籍ならば何でも良いので好きなものを持ち寄り、各々紹介するという形式で進行してゆきました。 探偵小説はもちろん、怪奇小説、幻想小説、冒険小説、少年小説等々、バラエティーに富んだ創作活動のみならず、膨大な資料を蒐集、研究、評論を通し日本、 海外の大衆文化に大きく貢献してきたエンターテイメントの巨人。二十面相も真っ青の数多き顔をもつ乱歩の、どの表情が参加者の心に響いたのでしょうか。

前半は持ち寄った作品の紹介です。みなさん何を読まれたのでしょう。

「二銭銅貨」「心理試験」「人間椅子」「パノラマ島奇談」「押絵と旅する男」「時計塔の秘密」「幻影城」

こうしてみると初期の作品が人気があるようです。「二銭銅貨」「心理試験」は推理小説のトリックを謎解きする鮮やかさを、「人間椅子」「パノラマ島奇談」は妄想が生み出す狂気の姿を、と初期中の初期から乱歩らしさは全開していた模様です。
「押絵と旅する男」は私を含め3名に推薦されました。この作品は乱歩らしい幻想譚の一つですが、冒頭の蜃気楼の場面から、列車の旅の不思議な道連れ、謎めく押絵、浅草への郷愁、などの描写が丁寧で、短編ゆえ簡潔にまとめられ、どんどん引き込まれてゆく乱歩の文章力に魅了されたようです。
「時計塔の秘密」は黒岩涙香が明治時代に「幽霊塔」のタイトルで翻案した小説を、昭和10年代に乱歩がやはり「幽霊塔」のタイトルで読み易く翻案し直したものを、さらに戦後になりタイトルを「時計塔の秘密」に改め、少年探偵ものとして発表したという変遷をたどっています。
「幻影城」は乱歩の評論集で、主に海外のミステリーの評論です。乱歩は探偵小説のみならず大衆文化全般にわたり、かなりの文献および資料を蒐集しております。戦前は創作活動を営みあまり人前に出なかった彼が、戦後は自身のアーカイブで培った博識を駆使し、大衆文化を広める活動にいそしみ後進の者たちを導いてゆきました。

戦前は探偵小説、怪奇小説の第一人者として数多い作品を残し、戦後は大衆文学界隈の重鎮として人望も厚く「大乱歩」称されるようになる、江戸川乱歩の足跡の一端を知ることができました。

 

下北沢古本屋クラリスブックス江戸川乱歩読書会

下北沢一番街にあるパン屋さん「ミクスチャー」のパンを食べながら、しばし休憩の後、読書会は後半へ。

後半はいつもフリートークの時間なのですが、今回はフリー熱が上昇し、江戸川乱歩から話はどんどん脱線してゆき、戦後日本文学論の会のような展開となりました。谷崎潤一郎、太宰治、坂口安吾、大岡昇平、松本清張、前回の読書会の古井由吉、次回の読書会のマルケス。。。そして店主が大好きな埴谷雄高に話が及ぶにつれピークへ。そして最後は指輪物語からファンタジー論へと話は尽きぬまま時間となりました。
今回の読書会は一つの作品に絞らなかったので、後半はある程度脱線していくだろうと思っていました。しかし例えば埴谷雄高へと話が移ったきっかけは、埴谷雄高が乱歩について語っているということであったので、あちらこちらへと話が飛んでいったのも、乱歩の多方面にわたる影響の大きさのなすものだと思いました。

こうして読書会を開催して思うことは、参加された皆さんが繰り出す読書体験の豊富さに、教えられることだらけだということです。そして次回以降の読書会のテーマのヒントもいただいているような気がします。本を読むことを一人で終わらせるのはもったいない。晩年の乱歩が広く世間に顔を出すようになったのもそんな思いがあったからだと思います。われわれクラリスブックスのスタッフもこうして読書体験を積み重ね、より充実した、何よりも面白い読書会を作ってゆきたいとも思っています。

石村

 

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