ニーチェの思想に多大な影響を与えたといわれる「意志と表象としての世界」。その作者ショーペンハウアーは、晩年エッセイ風の読み物を多数書いています。中でも私が特に好きな「読書について」をご紹介いたします。
学生の時「意志と表象としての世界」に挑戦し、結局途中で挫折したので、何かもっと簡単なものを読もうと思って、この「読書について」を読んだのが最初でしたが、そのような少し屈折した気持ちで読み始めたため、実は、あまり、というかほとんど頭に入りませんでした。それからかなり時が経って、友人たちと開催している読書会の集まりがちょうどあったので、再読したのでした。しかもちょうど光文社の古典新訳シリーズで出たため、どうせならこちらのほうが読みやすいだろうと思って、この新訳で読んだのでした。
▲「読書について」ショーペンハウアー
光文社古典新訳文庫 鈴木芳子訳 2013年
大変面白く、生涯ずっと手元に置いておきたいと思うほど、このショーペンハウアーの小品に心奪われました。
「読書について」というタイトルなので、てっきりたくさん本を読めよ〜みたいなことが書き連ねられているかと思ったら、実はその逆で、ざっくり言ってしまえば、あまり本を読むな、と書いてあるのです!
いろいろな本をやみくもに読み続けるのは、自分の頭で考えることにならず、他人の頭で物事を考えてしまう、自分の頭で物事を考える為には、たくさん本を読むのではなく、これだ!と思う一冊、数冊を熱心に読み進めた方がよい、と書いてあるのでした。これには驚いて、でも確かにそうだな、とも思えました。
結局人間の思考能力には限界があるので、たくさん読んでもなかなか頭には入ってきません。ただただ通り過ぎてしまうだけです。それならほんとに名著とされている良い本をじっくりと選んで、それをしっかり読む。ただ読むのではなく、噛みしめるように読む。ショーペンハウアーは、とにかく自分の頭で考える、ということを強調しています。他人に流されずに自分の頭で判断し、考え、行動する。これは何においても、最も大切なことだと思います。
以下に少し、ショーペンハウアー「読書について」から引用したいと思います。かなり辛辣な表現が続くので、どうぞ気をつけてお読みください。
「無知は人間の品位を落とす。しかし人格の下落がはじまるのは、無知な人間が金持ちになったときだ。貧しければ、貧苦が枷となり、仕事が知識の肩代わりをし、頭は仕事のことでいっぱいだ。これに対して無知な金持ちは、ただ情欲にふけり、日ごろ目にする家畜と同じだ。さらにこうした連中には富と暇を、もっとも価値あるものに活用しなかったという非難がくわわる。」
「読書するとは、自分でものを考えずに、代わりに他人に考えてもらうことだ。他人の心の運びをなぞっているだけだ。」
「昔の偉大な人物についてあれこれ論じた本がたくさん出ている。一般読者はこうした本なら読むけれども、偉大な人物自身が書いた著作は読まない。新刊書、刷り上がったばかりの本ばかり読もうとする。それは「類は友を呼ぶ」と諺にもあるように、偉大なる人物の思想より、今日の浅薄な脳みその人間がくりだす底の浅い退屈なおしゃべりのほうが、読者と似たもの同士で居心地よいからだ。」
高松
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